刃の欠け・刃の割れ

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刃物の基本情報

なぜ割れる?なぜ欠ける?~使い手のミス?作り手のミス?治せるの?~

刃物が割れる時、欠ける時にはさまざまな原因がありますが
大きく分けると、使い手のミスと作り手のミスの二種類に集約されます。

「そんなこと分かってるよ、当たり前だ」と言われそうですが
その刃物が正常な内容だったかを判断できる基準があります。

それは、割れ方です。

その刃物が良い刃物だった場合は楕円形に欠ける

これは、最初は新潟県三条市の鍛冶屋、日野浦司さん(日野浦刃物工房)からお聞きし、
そのことを埼玉県春日部市の鍛冶屋、間中俊輔さん(貴輔・間中刃物鍛錬所)や
山形県山形市の鋏鍛冶、飛塚靖仁さん(飛庄)さんに聞いてみたところ
大筋、「そのとおりです」とおっしゃられたことです。
※おそらく、他の鍛冶屋さんに聞いても同意される可能性が高いです。


△休刊してしまったナイフマガジンに何度も登場した日野浦司さん。包丁もつくっていますが、ご本人は代々受け継いだ鉈鍛冶と名乗られます。私は個人的に山小刀が好きで使用しています。

見出しにも書きましたが、日野浦司さんが話されたとおりに書くと
「その刃物の内容が良い場合は、楕円形に欠ける」
「内容が悪いと、三角形などギザギザに欠ける」
とのことでした。

使い方要因で割れ欠けが起こる理由

基本的なことなので、ここは端的にいきます。
下記に当てはまる場合は、刃物に割れ欠けが起こってしまいます。

  1. 刃が薄い刃物で硬いものを切る
  2. 刃が薄いところでこじったりひねったりする
  3. 引き切りが基本のところで押し切りをしたり押し込んだりする
  4. 推奨されない使用方法をする

たとえば、和包丁で半解凍のものを切る時は
上記の(1)から(4)のすべての要素が入っています。
骨に当たることを想定して厚くつくられた出刃包丁の利用方法を
他の包丁でしてしまうことも上記の条件そのもの。
用法・用途・使い方を守らなければ、
道具として機能しませんし、壊れる可能性が高まります。

また、剪定鋏の割れなどは、しっかり握り込まずに
刃を少しだけ入れて回したりこじったりしたときに欠けてしまいます。
中には番線(針金)を切って欠けたという人もいますが
これは、もう論外です。木を切るように設計されている鋏ですから。
※これ、クレームが苦手な問屋や小売店は謝って交換することもあると聞きますが、鍛冶屋さんの多くはなぜこうなったか分かっています。

作り手要因の割れ欠けが起こる理由

ひとつは、これから書く炭素分子が集まっている状態の商品だったということです。
ただ、鋼板から型抜きして熱処理をしただけの製品の場合
鋼を鍛錬する工程を省いていることが価格に反映されているため
誇大キャッチコピーがない場合は、値段相応です。
そういう割れ方をしてしまうものとして買い直しでよいでしょう。

鋼は切れ味=硬さを追い求めると脆くなります。
代表的なものは、時代劇や漫画で見る日本刀。
あれ、人を斬るほど硬いものですから
たとえ軟鉄と合わせていても(この合わせ方も種類があっておもしろいです)
横からの衝撃に弱く、折れている描写をよく見ます。
道具の刃物も同じで、硬さを追求した刃物に
予定外の方向から力を加えるとパキーンと割れやすくなります。

つまり、柳刃包丁のように、
柔らかい対象物を引き切りする想定で
思いっきり硬く薄くつくられた包丁なんて
用途と異なる使用方法をすると、割れ欠けがすぐにおこってしまいます。

そこで、鍛冶屋さんは、用途に応じて焼き戻しをして
硬さを少し落とすけれども粘りを出して割れ欠けのリスクを減らします。
製品として切れ味と耐久性のバランスがどこにあるかを決めるのも
鍛冶屋さんの腕の見せ所というわけです。

切れるけれども扱いには慣れが必要な刃物。
これを扱うお店は、すごいと思います。
たいていは、そういう文化貢献よりも単にクレームを避けたいがために
硬さ(=切れ味)を犠牲にしてでも思いっきり焼き戻しをかけて
粘りを多くして滅多に割れない商品に仕上げています。

つまり、用途どおり使用してくれると信じ、
切れ味を追い求めた鍛冶屋さんの銘品ほど
硬く薄くなりやすく
予定外の使用方法に対して割れやすいことは確かです。

理由は鋼の刃の中に存在する炭素分子

日野浦さんに「なぜ、そのような違いが生まれるのか」理由をお聞きしたところ、
鋼の中に含まれる炭素分子に理由があるとのことでした。

鋼材は、鉄を高炉で高温にして溶かし、
不純物を取り除いて、液体の状態から
じょじょに冷ましながら鋼板に仕上げます。

高速ベルトコンベアの上をローラーから出てきた真っ赤な鋼板が
次々と流れていく、ニュース映像などでよく見るあれです。

その後、鋼板は冷却されてロール状、もしくは板状の状態で
卸商を介して小売店に納品されます。

実はその状態の鋼は、刃物にするにはまだ不完全な状態。
なぜなら炭素分子が層状に集まっていることが多く
その箇所は衝撃に弱い箇所になります。

また、炭素含有量××%と記述されている鋼であっても
肝心の炭素が均一に混ざっていないと、性能どおりの硬さが出ません。

だから、鍛冶屋さんは、
鐵の組織を微細化して方向を整え
炭素の層をバラして均一にするために
ハンマーで何度も鋼を鍛錬しています。

割れ欠けのメカニズム

つまりは、鍛冶屋さんが鍛造していると謳っている製品においては
炭素の層をきちんとバラせているかが
内容の良い刃物かどうかを知るための第一歩です。
※微細化、球状化、熱処理、さまざまな要因がありますが、折り返し鍛錬を行うとこれらの状態になっていきますし、そこまで語ってくれる鍛冶屋さんはこれらの要素に対してこだわりを持っておられます。

つたない図ですが、鋼板に近い状態の鋼と
しっかりと鍛造した鋼の割れ欠けのメカニズムを図示してみました。
※炭素分子の大きさや個数は分かりやすいようにデフォルメしています。概念図です。

鋼の中の炭素分子の様子

(左)鋼板の中の炭素分子(右)理想的な鍛造をした鋼の中の炭素分子

左の図のように、鋼板内の炭素分子は互いに引き寄せられて塊りになっていることが多いです。
鍛造品では、鋼板の温度を上げて何度も叩くことで炭素分子同士をバラバラにしています。

ダメージを受ける鋼

割れ欠けが起こるダメージがそれぞれの鋼に起こったとします

ダメージを受けた鋼の内部では、その箇所から同心円状に無理な力がかかります。

ダメージを受けた鋼の割れ方

鉄よりもはるかに割れやすい炭素分子の場所を通って割れ欠けが起こりました。(下)は断面図です

炭素分子のある場所は割れ欠けに弱く、そこを亀裂が走りやすくなります。
鉄はご存じの硬さですが、炭素の硬さは鉛筆の芯をイメージしてください。
となると、亀裂は炭素分子のある場所をたどろうとします。

結果、鋼板に近い内容の刃物はギザギザに割れ欠けが起こり
内容が良い刃物は楕円形状に割れ欠けが起こります。

割れ欠けが起こってすぐの状態でその箇所を観察すると
炭素分子の場所は白く反射します。
※時間が経つと見えなくなります

断面図を見るとイメージしやすいかと思いますが
鋼板に近いものは白く輝くところが固まっています。

まとめ

刃物の割れ欠けは、作り手と使い手、双方に何らかの要因があり
しかも、複合要因で起こることが多いです。

この記事では、そのうちのひとつ、
「刃物の内容が良いのか悪いのか」を見分けるための
ひとつの視点をお伝えしました。

一般的に、きれいな楕円形に欠けるほど
鍛造をしっかりとしている鍛冶屋・メーカーは
出回っている刃物全体から見ると
そこまで多くはないのかもしれません。

刃物の修理は、大きく割れ欠けしていない限り、ほとんどが可能です。
(鋏の場合は合わせがあるので、刃が後退してしまうほどの割れ欠けは難易度が高いです)
その際にも、その刃物が良い内容か悪い内容かは
送料や修理費用を出してまで行う必要があるのか、判断基準になるかと思います。

長く愛用してきた刃物をまだ生かしたい場合はこの限りではありません。
内容よりも愛着だと思います。

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URA EDGE

兵庫県神戸市出身。制作ディレクター・ライター。雑誌「庭」での連載をきっかけに40名以上の鍛冶屋さんおよび数社のメーカーを取材。刃物の海外販売ECサイト「TETSUFUKU」および国内販売ECサイト「たたらや」を運営。刃物業界、特に手打ちの鍛冶屋さんによる刃物文化を世界に発信したいとEDGESを立ち上げる。

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