飛庄A型 剪定鋏

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道具解説 剪定鋏

A型 剪定鋏【飛庄・剪定鋏】を、取材歴10年超のライターが徹底解説

A型 剪定鋏の基本情報

山形の剪定鋏にはふたつの始祖があり、そのうちのひとつがこのA型です。
歴史としては、A型やB型という呼称は後発で
後にB型と呼ばれるタイプの方が早く生まれたとされています。

あくまでも個人的な意見ですが、A型の最大の特徴は頑強さ。
がっしり握ってガッツリ剪定したい人に向いています。

飛庄の場合は、全長225mm、200mm、185mmと、サイズバリエーションが3つあり
225mmと200mmには青紙鋼仕様もあります。
左利き鋏の設定はありません。

プロライターが解説「飛庄のA型 剪定鋏が安心して購入できる通販サイト」

価格は、こちらも家庭向けには安い部類ではありません。
特にホームセンターに置かれているラインナップを基準に考えると、そこそこします。
しかし、切れ味と耐久性=コスパを加味すると高くはない買い物です。
また、100年近い歴史を持つ形状ですから、
保有することに誇りや喜びを持つ人もいるでしょう。(筆者はこのタイプです)

ホームセンターで見かけることはほとんどなく
趣味の園芸店や意識が高い金物屋さんで見かけることがあり
インターネット上では、比較的よく目にします。

飛庄のラインナップの中でも、最もメジャーな剪定鋏ですし
剪定鋏をつくる多くのメーカーも製造しています。

購入の際は、到着時間や決済のラクさから考えて、amazonで購入してもよいと思います。
特にprime会員の人はamazonでよいのではないでしょうか。

鍛冶屋さんから直接お話を伺ったプロライターの目線から見る、「剪定鋏・飛庄(A型 剪定鋏)とは?」

いまでこそ山形県を中心に、さまざまな刃物の産地でA型の剪定鋏がつくられていますが
その元祖を探ると、山形県の村久という銘の剪定鋏をつくる野村屋製鋏所という鋏鍛冶に行き着きます。

現在、伝統的な形状とされているものにA型とB型がありますが
最上川が最初にB型を開発。その後、村久がA型を開発したそうです。
(村久の初代は最上川に弟子入りしていたとのことです)

さらに後年になって、A型とB型と名付けられたとされていますが
その由来は形状という説がメジャーです。しかし、裏付けは取れていません。

A型の場合は、形状だけが大切というわけではなく
元祖の定義としては、ボディが鋳物、刃は真鍮蝋付けで接合されるものになります。
※つまり、真鍮蝋付けを外せば刃の付け替えができることが本来のA型のメリットです。

現在、この伝統的な真鍮蝋付けの工程を持つA型を製造しているのは
飛庄だけではないでしょうか。
見分け方は簡単で、刃を貼り合わせたラインに金色の筋が入っています。
(私が調べた限りの話です。もしほかにあれば、ぜひ情報をください。掲載します)

切れ味や耐久性もトップクラスながら、
真鍮蝋付けという伝統的な製造方法を守り刃の交換も可能なA型こそ
持つ人にとって誇らしいものではないでしょうか。

飛庄 A型 剪定鋏を作っている飛塚製鋏所(鍛冶屋さん)について

飛庄は銘で、正式名称は「飛塚製鋏所」といいます。現在の飛塚靖仁さんで三代目。およそ90年近い歴史を持つ剪定鋏メーカーです。これまでの三代のうちに婚姻関係や兄弟関係なども含めてたどると、文化元年(1804年)創業の刃物づくりにまでさかのぼれるほど、刃物づくりに深く携わってきた家系といえます。

飛庄の剪定鋏づくりの特徴は、伝統と革新の両方を合わせもつところ。鋳物に刃を真鍮蝋付けするA型や全身鍛造のB型の製法を守り抜くとともに、新たにSR型や飛龍型などを開発。さまざまな顧客の好みに適合する剪定鋏をつくり続けています。

なぜ、A型という名前なの?

100年以上前にB型が、続いてA型の元祖が生まれました。
まず、B型を最上川屋(最上川)がつくり、その後、A型を野村屋製鋏所(村久)がつくりました。

ここからは個人の推測です。
A型やB型という呼称が、後年名付けられたとされていますが
仮に山形県内の卸商が名付けたならば、時代が早い最上川をBとはしない気もします。
形状由来という説もありますが、ランク付けで、AとBで優劣が付いてしまうからです。
ひょっとすると、山形県外の卸商か、もしくは果樹農家の方が呼び始めたのかもしれません。

飛庄 A型 剪定鋏の良いところ・メリット・おすすめしたい人

  • 高い剛性
  • バツっと切断する際のフィーリング
  • 刃の付け替えが可能(青紙鋼にもできるし、長く愛用できる。※要工賃と送料)
  • 伝統的なハマグリ刃
  • 鏡面加工による切断抵抗の減少

おすすめしたい人=ガンガン剪定作業を進めたいプロ・ワンランク上の剪定鋏がほしい人・力強い剪定鋏がほしい人

A型は高い合成を生かした切断能力が一番の魅力です。
200mmの重量は240gで、握るとしっかりとした印象を受けます。

持ち手は鋳物ですが、三代目の飛塚靖仁さんの代で改良されています。
ただの鋳物ではなく、ロストワックス法という手法を採用。
普通の鋳物よりも細かい型づくりが可能な方法で
飛塚靖仁さんいわく
「親指上部の曲線の精密さや、強度を保ったまま肉抜きした軽量化に成功しました」
とのことです。
インターネット上で検索すると「New A型」という表記を見かけますが
これはロストワックス法による改良を行ったときに名付けた名称です。
現在は、旧A型の製造を行っていないため、Newの有無にかかわらず、
市場に出回っているもののすべてが「New A型」です。

上記でも書きましたが、もうひとつのメリットは刃の交換が可能ということ。
これは、真鍮蝋付けで刃を付ける従来型のA型でなければできません。
現在のところ、従来製法を守り続けているのは飛庄だけのようです。

刃には山形の剪定鋏が得意とするハマグリ刃と鏡面仕上げを採用。
切り抜ける時の摩擦抵抗を大幅に減らしています。

100年近くを生き抜いてきた形状です。
剪定鋏として、ひとつの完成形ではないでしょうか。

A型 剪定鋏の悪いところ・デメリット

  • SRシリーズよりも多少重たく感じる(重心がちょっと前にある印象)
  • がっしりと握り込んで使うフィーリング
  • 刃は付け替え可能だが、工賃に加えて送料が必要

デメリットはメリットの裏返しともいえます。
がっしりと握り込んで使いたい人には◎ですが、ソフトなタッチを好む人にはSR型やB型の方が良いかもしれません。

また、疲労を及ぼさない程度に多少の重量感があります。
こちらも、好みで分かれるでしょう。
たとえばカメラも軽すぎるとブレるというプロカメラマンは山ほどいます。
自分にとって最良の重量感をお探しください。
つまり、多少の重量感が心地よい人にA型は向いています。

【注目すべきポイント】A型 剪定鋏は持ち手→カシメ→刃先の角度に注目

バランスや重量感とともに大切な判断基準があります。
それは、握った時に刃先がどこに来るかということ。
A型の場合は、構えたときに中心線よりも下に来る設計になっています。
これは、飛庄だけでなく、一般的なA型のすべてに共通しているはずです。
対してB型は両ハンドルを挟んだ中心線に近い場所に刃先がきます。
ここは、作業内容と好みで大きく分かれるポイントです。

【注目すべきポイント】飛庄 A型 剪定鋏 185mmは真鍮蝋付けではない

225mm、200mmには真鍮蝋付けの金線が見える飛庄のA型。
対して、185mmには金線が入っていません。
飛庄さんによると「185mmは真鍮蝋付けではありません」とのことでした。

以下、憶測ですが、飛庄さんの場合、200mmを標準とすると
大サイズの225mmはA型に、小サイズの180mmはB型に昔からあったそうです。
つまり、A型185mmはお客さんの要望により後から追加され
しかも出荷量が少なめのため、鋳型がないのではないでしょうか。
あくまでも憶測ですが、確度は高いと思います。

【注目すべきポイント】飛庄 A型 剪定鋏 185mmには青紙鋼仕様は存在しない

理由は簡単です。
真鍮蝋付けでボディと刃を接合しないということは
通常の鍛接か全身鍛造で剪定鋏をつくらなければなりません。

青紙鋼は、硬度を上げられる代わりに、加工性が落ちます。
鋼の炭素量もさることながら、モリブデンやタングステンなどが添加されているので、とにかく硬い。
このあたりは、青を研いだことがある人ならご理解いただけると思います。
あれを叩いて曲げたり、伸ばしたり、削ったりして加工する。
かなりの手間がかかり、現実的ではありません。

飛庄 A型 剪定鋏のスペックをご紹介

サイズと重量

全長225mm 重量は390g 左利き設定=なし 青紙鋼仕様=あり 製造方法=真鍮蝋付け&ロストワックス
全長200mm 重量は250g 左利き設定=なし 青紙鋼仕様=あり 製造方法=真鍮蝋付け&ロストワックス もしくは 鍛造
全長185mm 重量は210g 左利き設定=なし 青紙鋼仕様=なし 製造方法=鍛造

持ち手

真鍮蝋付けタイプ

225mmと200mmは、鋳物の進化形のロストワックス製法で製造。
滑り止めになる膨らみが大きく張り出しているのは、
細かい設計が可能になったロストワックス法以降のタイプ。
また、同製造方法により、強度を下げずに肉抜きに成功しています。

鍛造タイプ

全身鍛造により製造。

留め具

金留めのみ

使用している鋼

ノーマル仕様

日立金属のYCS3という鋼を使用しています。
工具鋼に分類される鋼で、炭素量などを考慮しても植木を切る刃物に向いている鋼です。
どうしてこの鋼を使用しているか、飛庄の三代目、飛塚靖仁さんに聞いてみたところ
・バランスが良い
・飛庄の製法と適合している
とのことでした。
YCS3は、SRシリーズや飛龍にも使用している鋼で
飛庄が知り尽くし、ずっと使用してきた、最も得意とする鋼です。
鉛バスを用いた熱処理などで、YCS3のポテンシャルを引き出しています。
飛塚靖仁さんにYCS3について聞いたところ
「剪定鋏の鋼として最適だと考えている」という返事をもらいました。

青紙鋼仕様

こちらも飛庄の三代目、飛塚靖仁さんに伺ったところ
「お客さんの要望でつくることにしました。他の鋏と違ってA型は刃だけを製造して真鍮蝋付けをするため、鋼を変更することが可能でした。個人的にはYCS3の標準仕様に自信があり、それが十分な性能を兼ね備えていると考えていますが、せっかくつくるならばと私たちが考える最適な熱処理を施して仕上げています」
とのことでした。
青紙鋼の良いところは、タングステンやクロムの添加により、耐久力がある長切れする刃になること。これは明確なメリットです。

ここからは、あくまでも私見です。
青紙鋼のもうひとつの良いところは、他の鋼よりも硬度を上げられること。
鉋や包丁であれば、切ったり削ったりする対象物は木の表面や固くない食材です。
また、刃を動かす方向も「引く」の一方向のみ。
だからこそ、鍛冶屋さんは青紙鋼を使って究極の硬度を追い求めることができます。
対して、剪定鋏の切断する対象物は木。
しかも挟み切る動作ですし、手の動かし方によっては切る瞬間に力が曲がって伝わる可能性もあります。
刃は硬度を追い求めると脆くなるので、使い方によっては欠ける可能性が高くなります。
ですから、私は青紙鋼の最高ポテンシャルの硬度を飛庄さんは追い求めてはいないのでは?と考えています。

ただ、剪定鋏には刃の厚みがあります。
その点を考慮して、許容範囲内の最高レベルで青紙鋼の硬度を上げていると理解しています。

特筆すべき製法や工夫

金属組織

YCS3の特性を生かすために、球状化を徹底追及。低温加熱で繰り返し打つことで
不純物を除去して鋼の密度を高めています。

熱処理と熱への対応

鉛バスを使った熱処理をしています。
800度で溶かした鉛の上で炭を燃やすことにより、浸炭効果からカーボン量を向上。
無酸素の状態で加熱から冷却まで行うため、過熱、酸化、脱炭を防ぎ、理想的な焼き入れ組織になります。
電気炉を用いた自動制御による焼き入れと焼き戻しや
湿式研磨により余計な熱を刃に伝えずに研ぐ技術など
熱へのこだわりがあってこその仕上がりです。
もちろん、高周波加熱は一切行っていません。

ハマグリ刃と裏スキ

切り刃の表がハマグリのような曲面のため、こう呼ばれています。
切断面と面ではなく点で接するため、摩擦抵抗を圧倒的に少ないことが特徴。
あわせて刃の裏は三次曲面を構成。
刃前から峰に向かって低くなる様にひねりを付けていることから、切断点がスムーズに移動。
抜群の切れ味を生み出しています。

人の手によるネジ締めと調整

握り心地と切断能力を最後に極めているのは、ネジ締め。
ガタがなくスムーズに開閉するように、一丁一丁感触を確かめながら合わせ具合を確認しています。

ロストワックス法による繊細な設計と軽量化

本文でも述べましたが、鋳物の進化形のロストワックス法で製造することによって細かい製造が可能になります。
三代目の飛塚靖仁さんは、カシメから持ち手付近のカーブを見直し、バランスを改善するとともに、滑り止め形状なども実現。
強度を減らさずに肉抜きすることで、軽量化にも成功しています。

刃の付け替えが可能

真鍮蝋付けでボディと刃が接合されている225mmと200mmは、経年劣化した刃を取り換えることができます。
その際にはYCS3か青紙鋼かの選択も可能。
ただし、要工賃ということと、往復の送料が必要です。
日本国内の場合はレターパックライト(青)を使えば送料は往復で740円になります。

飛庄 A型 剪定鋏の価格帯

225mm(ノーマル)の定価は10,000円(税抜)=11,000円(税込)
225mm(青紙仕様)の定価OPENプライス ※公式Webサイトに掲載されていません
200mm(ノーマル)の定価は9,200円(税抜)=1,0120円(税込)
200mm(青紙仕様)の定価はOPENプライス ※公式Webサイトに掲載されていません
200mm(鍛造)の定価は8,500円(税抜)=9,350円(税込) ※真鍮蝋付けではない仕様です。200mmに存在することを最近知りました。筆者は見たことがありません。
185mm(鍛造)の定価は8,000円(税抜)=8,800円(税込)

日本国内で購入する場合の、平均価格

インターネット上では、一部の安売り店で、
200mmのノーマルでは8,000円(税込)前後、青紙鋼仕様では10,000円(税込)前後で見つけることできます。
※時期によります

おおよそ定価の2割引程度が相場のようです。

飛庄 A型 剪定鋏のメンテナンス方法

基本的にかなり習熟した人以外は砥石をかけることが難しい製品です。
定期メンテナンスで、飛庄さんに研いでもらうことが最も望ましい解決法になります。

それでも研ぎたい人へ ~刃先の場合~

研ぐことが難しい理由はハマグリ刃。このRを維持したまま研ぐ能力が必要です。
刃先だけを#1000の砥石で研ぎ続けるとどんどん刃先が鈍角になり、切れ味が鈍くなります。
そのため、刃が後退した分だけハマグリ刃を#220の砥石などでつくりなおす必要がありますが
これはなかなかできることではないですし、鏡面のバフ研磨もし直さねばなりません。
なかなかハードルが高いのでご注意ください。
仮に研ぐ場合は以下の点をご注意ください。
・刃先のほんの少しだけにする
・表をナニワの剛研(剪定鋏用)#1000で研いで裏にかえりが出たら、かえりを取るだけ程度にだけ砥石を当てる。
・裏を研ぐことは一切考えないでください。刃と刃の合わせがおかしくなります。

それでも研ぎたい人へ ~刃の欠けの場合~

これはもう、自分で何かしようとすることをあきらめたほうが良いかもしれません。
仮に研ぎ進めて刃の形状を作れたとしても、受け刃との合わせが合わなくなります。
飛庄さんに修理依頼してください。

飛庄 A型 剪定鋏のまとめ

バランスを取るならSRシリーズに軍配が上がりますが、それでも忘れてはいけないのがA型です。
100年近い伝統を生き抜いてきた完成されたデザイン。
もはや飛庄だけかもしれない、真鍮蝋付けによる刃の接合。
これにより、刃の取り換えも可能です。

がっしりとした握り心地と切れ味鋭い刃が生み出す、パワフルな剪定能力は
それを求める人にとって、最も大切なことではないでしょうか。

また刃先の位置が少し下を向いていることもポイント。
果樹農家の剪定作業でありがちな、上に手を伸ばして剪定する時には
ちょうど良いポジションで切ることができます。

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URA EDGE

兵庫県神戸市出身。制作ディレクター・ライター。雑誌「庭」での連載をきっかけに40名以上の鍛冶屋さんおよび数社のメーカーを取材。刃物の海外販売ECサイト「TETSUFUKU」および国内販売ECサイト「たたらや」を運営。刃物業界、特に手打ちの鍛冶屋さんによる刃物文化を世界に発信したいとEDGESを立ち上げる。

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